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筋骨格動作解析とは?

筋骨格動作解析とは何か

「筋骨格動作解析」とはつまり、筋肉の使い方までわかる動作解析です。人の体がどのように動いているかなどの、通常の「動作解析」も可能です。主に以下の5つを解析することができます。

  • 関節角度:体がどのように動いているか
  • 床反力(外力):地面などから体にかかっている力
  • 関節トルク:関節にかかっている力・負荷
  • 筋活動:筋肉がどのように使われているか
  • 筋張力:筋肉にかかっている力・負荷

ではどうやって筋肉の使い方まで解析するのか?
従来は筋電計のようなセンサーを使って、筋肉に流れている微細な電気を読み取っていました。しかし、筋骨格動作解析ではシミュレーション技術によって筋肉の使い方を解析するため、筋電センサーを使いません。さらに、筋骨格動作解析の素晴らしい点は、筋肉の負荷までシミュレーションできることです。これは筋電センサーでは解析できません。この記事では「筋骨格動作解析」は、どんな使い方ができるか、使い始めるためには何を用意すれば良いか、解説します。
Muscle Sensor v3 | Granted, using our muscles to control thi… | Flickr
筋電センサー

「筋骨格動作解析」はどんな使い方ができるか

1番の特徴は筋肉の使い方がわかることです。例えばこんな時に使えます。

  • トップスポーツ選手は筋肉をどのように使っているのか知りたい
  • トレーニング(orリハビリ)で正しく筋肉を使えているのか見てみたい
  • スポーツや仕事でどこの筋肉に負担がかかっているか知りたい

大谷翔平がホームランを打つ時はどこに力が入っているのか、自分は同じようにできているのだろうか、自分のやり方で怪我はしないだろうか…
誰しもが一度はこんなことを考えたことがあるんじゃないでしょうか。もし筋肉の使い方が一目でわかったら、いいですよね。そのためには何を準備すればいいのかを説明します。

「筋骨格動作解析」を行うための準備

まず、以下を用意しましょう。

  • 三次元動作解析装置(モーションキャプチャー):5000万円~1億円
  • 反射マーカー:10万円
  • 床反力計(2枚以上):1000万円~1億円
  • 動作解析ソフト:200万円~
  • 筋骨格シミュレーションソフト:0円~200万円
  • 専門スキル
  • 研究室とハイスペックPC

これらを用意する必要があります。費用はおよそ1~2億円です。
そうです、この時点でムリゲーです。普通は。

従来、筋骨格動作解析を行うためには大学レベルの研究室と非常に専門的な知識が必要で、とても簡単に扱えるものではありませんでした。しかも一人の計測と解析に1~3時間はかかります。正直、面倒です。
しかし、近年の機械学習技術の発展により、筋骨格動作解析もかなり簡単にできるようになってきています。なので、以下のものが用意できれば使えるようになります。

  • タブレット1台

これはありがたい。
実は、もはやタブレット1台あればできるようになっています。専用の研究室も必要ありません。もともと2億円が必要だった事から考えたら1/1000くらいの費用でできてしまいます。これならばちょっと試しに使ってみる、ということができそうです。
ORGOのMYoACTはタブレット1台で、リハビリ向けに筋骨格動作解析ができるように作られたアプリで、MYoACTエンジンをベースに作られています。MYoACTやMYoACTエンジンについてはこちら。
MYoACT:https://www.myoact.com/
MYoACTエンジン:https://www.myoactengine.com/

筋骨格動作解析の仕組み

筋骨格動作解析は以下のステップで行われます。従来の2億円の設備を使った場合を説明します。

  1. モーションキャプチャー・床反力計測
  2. 関節角度計算
  3. 関節トルク計算
  4. 筋活動・筋張力計算

まずはモーションキャプチャーでデータの計測が必要です。計測される人の全身に反射マーカーを貼り、マーカーの位置データを計測します。同時に床反力計から外力を計測します。マーカーデータはノイズが乗りやすいのできれいに処理しておきます。ここまでで数時間かかります。

ここからは筋骨格モデルが扱える、筋骨格シミュレーションソフトを使用します。
計測したマーカーデータを使って関節角度計算を行います。インバースキネマティクスという最適化計算方法を使っていて、筋骨格モデルを計測した人の姿勢に当てはめていくような処理です。次に関節角度データと床反力データを使って関節トルクの計算をします。ここでは逆動力学計算という方法を使い、全身の詳細な運動方程式を使って計算します。

最後に関節トルクデータから筋活動・筋張力の計算を行います。関節トルクは例えば、スクワットする時の膝を伸ばす力(トルク)にあたります。膝を伸ばす力は主に、フトモモの大腿四頭筋が発揮します。ここで問題なのが、関節トルクは1つなのに対し、大腿四頭筋は筋肉が4本あるため、うまく分配しなければいけません。そこで筋肉1本ごとに出力できる関節トルク(=筋張力×モーメントアーム)を考慮して、最適化計算を行うことで、うまく分配しています。この時に、筋肉の張力をコントロールする筋活動も同時に計算されます。同様の計算を全身同時に行います。

以上が筋骨格動作解析のおおまかな仕組みです。
筋骨格シミュレーションソフトを使えば、自分で計算処理を行う必要はありませんが、それでも専門技術者が必要なレベルの難易度です。

まとめ

筋骨格動作解析はまだまだ一般には広まっていませんが、夢が膨らむ素敵な解析です。しかし、従来の方法であれば、とてもいろんな方が使えるシロモノではありませんでした。興味を持った方はタブレット1台あればできるMYoACTのようなものから試してみることをお勧めします。

記事を書いた人

上野亮 / 執行役員

北海道大学大学院にて理学療法士および保健科学博士を取得。その後、米国Mayo Clinicおよびオーストリア国インスブルック大学でポスドク研究員として勤務し、筋骨格モデルを使ったバイオメカニクス解析に関する研究を行う。株式会社ORGO入社後、研究プロジェクトの総括を行う。