動作解析データの解釈の仕方
アプリを使って動作解析を行う時、どこを見るべきか。
関節角度や床反力、関節トルクなど、データが多すぎてどこを見ればいいのかわからない方も多いかなと思います。MYoACTでは現在227項目のデータが取得できます。これは非常に多いので、どんなにデータに慣れている人でも全てを把握することはできません。ではどうするか。大丈夫です、簡単です。
まずは一つの項目だけ見てみる。
はい、見る項目は一つだけでもいいです。確認できる項目がたくさんあるからといって、全部を見る必要はありません。気になるところだけを見ましょう。
例として、歩き方の解析結果を見てます。まず、下の画像は正常な歩行です。
これは右足を付いた直後のタイミングです。特に気になる点はないですね。
では次に異常のある歩き方の結果を見てみます。下の画像も同じく右足を付いた直後のタイミングのものです。
こちらは明らかに正常歩行の画像とは違いがありますね。今回はこのタイミングに着目しましょう。ではデータはどの項目を確認するかですが、画像で一番気になるのは骨盤の前傾や左股関節の屈曲ではないかなと思います。とりあえず骨盤をまず見てます。
こちら「骨盤後傾」の角度が-5.9°なので「骨盤前傾」が5.9°になります。ただ、これだけでは良いのか、悪いのか判断するのは知識や経験が必要です。ではさきほどの正常歩行の骨盤のデータを見てみましょう。
こちらは-2.9°なので異常歩行の方が「骨盤の前傾」が3°大きいですね。波形の形も見てみましょう。正常歩行はリズミカルに前傾-後傾-前傾と入れ替わっています。一方、異常歩行の方は「常に前傾位」となっており、最大で10°以上前傾の値を示しています。最大値に着目するのもアリです。
このように、この歩き方は骨盤の前傾が強いことがわかります。患者さんに歩行の解析結果を説明する時、このように一つの項目を説明するだけでも十分に正常との違いを可視化できるのではないでしょうか。また、データで示すことでとても説得力のある説明になるのがお分かり頂けると思います。
ということで、一つの項目を見てみるだけでも十分に動作解析の効果を得ることができるのです。データが多くて嫌になる方は、まずは一つの項目に着目してみましょう。
もちろん、一つと言わず他の項目を見てもいいです。最初に股関節も気になっていたので、股関節の結果も見てみましょう(プロの方はもちろん見るでしょうが)。まずは正常歩行から。
左股関節屈曲が-8.5°なので伸展8.5°です。次は異常歩行です。
こちらは屈曲12.6°ですね。さらに特徴的なのは、全く伸展域に入らないことですね。この結果から、正常では股関節が伸展するタイミングで、この異常歩行では「骨盤が前傾が大きく、左股関節が屈曲位にある」という歩き方になります。これは片麻痺患者さんによく見られる歩き方で、股関節伸展が入らず、骨盤の後退で代償するような動きになります。理学療法士などの専門家であれば病態や運動学を交えて考察をするかと思いますが、今回の記事は動作解析データからまず何かを発見できるようになろうという趣旨で書いてみました。
では動作解析データを見るときの3つのポイントです。
- 一番気になる項目一つをピックアップ
- 正常な動作の結果と比較する
- 動作の同じタイミングで比較、または最大値で比較する
この3つを押さえれば、どんどん新しい発見ができるようになり、データを見るのが楽しくなると思います。注意してほしいのは、色んな項目を見るのは慣れてからにしましょう。全身の運動は連鎖していますので、色んな所が目につきますが、だんだん混乱すると思います。「あれ、全部変に見える、どの動きを直せばいいだ。。。」となります。「異常なデータを探す」よりも「気になる箇所がデータではどうなっているかを確認する」くらいの方が使いやすいと思います。
結論、動作解析データは気になる項目一つを見るだけで大きな結果を得られる。

記事を書いた人
上野亮 / 執行役員
北海道大学大学院にて理学療法士および保健科学博士を取得。その後、米国Mayo Clinicおよびオーストリア国インスブルック大学でポスドク研究員として勤務し、筋骨格モデルを使ったバイオメカニクス解析に関する研究を行う。株式会社ORGO入社後、研究プロジェクトの総括を行う。