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クラウドコスト最適化に向けた今後のアプローチFinOps

クラウドの利用が拡大する中、多くの組織がクラウドコストの管理に課題を感じています。当社のクラウドサービスとして提供していく筋骨格動作解析サービスも多くのクラウドリソースを活用しています。その中で、クラウドリソースを最適化するFinOps(Financial Operations)の基本概念から実践的な導入方法まで解説していきます。

FinOpsとは

FinOpsは、クラウドの財務管理を最適化するための文化的実践とテクノロジーの組み合わせです。従来のIT部門主導のコスト管理から、開発者、財務部門、ビジネス部門が協力してクラウドの価値を最大化する新しいアプローチです。

なぜ今FinOpsが重要か

クラウドコストの急増

以下の理由によりクラウドのコストが急増しています。

  1. 主にAI解析による従量課金モデルによる予期せぬコスト増加
  2. リソースの過剰プロビジョニング
  3. 未使用リソースの放置
  4. リソース消費量の算定の難化

ビジネスインパクト

クラウドコストは以下の理由でビジネスに大きなインパクトを与えています。

  1. クラウドコストが利益率に直接影響
  2. 部門間の費用負担の不透明さ
  3. コスト最適化の責任所在が不明確

FinOpsの3つの柱

FinOpsを考える上で3つの大事な要素があります。

  1. 可視性(Visibility):リアルタイムのコスト把握や部門別・プロジェクト別の利用状況分析、部門別・プロジェクト別の利用状況分析
  2. 最適化(Optimization):リソースのライトサイジング、自動スケーリングの適切な設定、リザーブドインスタンス/Savings Planの活用
  3. 運用(Operations):コスト管理のポリシー策定、自動化されたコスト監視、定期的なコストレビュー

実践的な導入ステップ

FinOpsを実践的に導入するまでのステップを説明します。

  • Step 1 現状分析:クラウド利用状況の棚卸しを行い、コストドライバーと主要なステークホルダーの把握の特定を行います。
  • Step 2 タグ戦略の確立:以下のようなタグ付けの選定を行います。

必須タグ例:

  1. Environment: prod/dev/test
  2. Department: engineering/marketing/sales
  3. Project: project-name
  4. Owner: teamname
  • Step 3 モニタリング体制の構築:コストアラートの設定、予算超過の自動通知、定期レポートの作成
  • Step 4 最適化の自動化:未使用リソースの自動シャットダウン、オートスケーリングの最適化、スポットインスタンスの活用

効果測定とKPI

導入するにあたって検討すべきKPIは以下の通りです。

  1. コスト効率性指標:単位当たりのクラウドコスト、リソース使用率、無駄なリソースの割合
  2. ビジネス指標:ROI(投資対効果)、コスト削減率、予算遵守率

実装時の注意点

実践時の注意点としては、明確なチーム体制や責任者の決定を事前にしておくことや、コスト意識を文化的に浸透しておく、また、情報の視覚化と最適化に適したツールの選定が必要です。

クラウドサービスコスト分析ツール比較

以下の表に各クラウドサービスのコスト分析の主要機能の比較を行います。

機能 AWS Azure GCP
基本機能 コスト分析・予測 コスト分析・予算管理 コスト分析・予算管理
API提供
カスタムレポート
料金体系 APIコールに課金 無料 無料
データ保持期間 12-14ヶ月 最大7年 無制限(BigQuery連携)

予算管理ツール比較

以下の表に予算管理ツールの比較を行います。

機能 AWS Azure GCP
アラート設定
予算タイプ コスト/使用量/RI コスト コスト/使用量
アクション自動化

自動化スクリプト実装例

ここでは、クラウドサービス側からのコストアラートのサンプルを記述します。

  • AWS CLI: 未使用EBSボリュームの検出と削除
#!/bin/bash
# 未使用のEBSボリュームを検出
UNUSED_VOLUMES=$(aws ec2 describe-volumes \
  --filters Name=status,Values=available \
  --query 'Volumes[*].{ID:VolumeId,Size:Size}' \
  --output json)
# 検出結果をログに記録
echo "Detected unused volumes: $UNUSED_VOLUMES"
# 未使用ボリュームの削除
for VOLUME_ID in $(echo $UNUSED_VOLUMES | jq -r '.[].ID'); do
  aws ec2 delete-volume --volume-id $VOLUME_ID
  echo "Deleted volume: $VOLUME_ID"
done
  • Python: コスト異常検知とSlack通知
import boto3
import json
from datetime import datetime, timedelta
from slack_sdk import WebClient
def check_cost_anomalies():
    client = boto3.client('ce')
    # コスト取得
    response = client.get_cost_and_usage(
        TimePeriod={
            'Start': (datetime.now() - timedelta(days=1)).strftime('%Y-%m-%d'),
            'End': datetime.now().strftime('%Y-%m-%d')
        },
        Granularity='DAILY',
        Metrics=['UnblendedCost']
    )
    daily_cost = float(response['ResultsByTime'][0]['Total']['UnblendedCost']['Amount'])
    if daily_cost > 1000:
        notify_slack(f"Warning: Daily cost exceeded threshold: ${daily_cost}")

まとめ

FinOpsの効果的な実装には、適切なツールの選択、組織の成熟度に応じた段階的なアプローチ、そして自動化の活用が重要です。各クラウドプロバイダーのツールを理解し、組織の要件に合わせて使い分けることで、最適なコスト管理を実現できます。

当社のアプローチとしては、GPUサーバの領域は非常にコストインパクトが大きいため、複数のクラウドサービスを跨って設計することで最適なFinOpsを実現できるように取り組んでおります。

記事を書いた人

坂口広樹 / 取締役

北海道大学大学院卒業後、三菱電機株式会社のIT研究所にて研究開発に従事。製品の付加価値を生み出す技術の創出と知財権の取得を主な業務とし、またGoogleベンチャー企業とシリコンバレーで他社研究所との共同研究を経験。2020年8月に株式会社ORGO設立、同社取締役就任。国立大学との共同研究等により、新技術開発を牽引。